晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

御池岳 千の風を感じて 2008.10.04

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ジンジソウ

 

<メンバー>
単独

 

<山域>

 

<コース>
コグルミ谷~長命水~カタクリ峠~真の谷テン場~(東斜面直登)~テーブルランド~東のボタンブチ~幸助の池~ボタンブチ~風池~真の池~鈴北岳~みぶな野~タテ谷~コグルミ谷

 

 御池岳を愛してやまなかった御池杣人ことK先生が亡くなられて10日あまり。山行で御一緒させて頂いたのは最近の事で、すでに闘病生活に入られていた後でもあったのですが、鈴鹿を愛する大先輩として尊敬と憧れの心をもっていました。沢シーズンも一段落し、ヒルも影をひそめる季節になったので、先生の愛した御池岳をじっくり歩いてみようと思い、ひとり出かける事にしました。

 

 国道306は二日前から通行可能になっていたのでコグルミ谷まで車を進めます。開通の知らせを聞いてどっと人が押し寄せるだろうと思い、少し早目に行きましたが登山口には車が一台だけで少し拍子抜け。それでも登山口では犬連れのご夫婦、単独男性と一緒になります。

 

 堰堤の上は結構荒れており、犬連れのご夫婦は驚いておられる様子。ただ、登山道は大丈夫ですよと話をしてスタート。堰堤の下には以前登山口にあった丸木橋が流されていました。

 

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木橋が流されていた

 

 最近体が重くなったせいか歩き初めは息が切れます。コグルミ谷の登山道は少し荒れた感じがしますが、歩くのには支障ありません。ただ、長命水の辺りが少し分かりにくくなっており、気をつけていないとまっすぐ進んでしまう恐れがあります。長命水で休憩し、後ろから来られた単独の男性に先に行ってもらいます。

 

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長命水

 

 長命水からしばらく歩いて行くと、K先生が自分のお墓と決めていた大岩に到着です。その話を聞いた当時は変わった人がいるもんだな~としか思っていませんでしたが、まさかこんなに早く本当になってしまうとは思いも寄りませんでした。
 岩からはたくさんの草木が生えており、今日はジンジソウまで咲いていました。岩の上にはお花とアンパンが供えてありました。先に歩いた単独の男性も岩をじっと見ておられ、先生に縁のある方のようです。

 

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近藤岩

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ジンジソウ

 
 カタクリ峠に到着してベンチに座り込むと先ほどの男性も休憩しておられました。先生に縁のある方なら声をかけてみようかなと思っていたら、先に「たろーさん?」と尋ねられてしまいました。あ、東雲さんだ。3月の御池庵の集いの時にお会いしていたのにすぐには気づきませんでした。向こうもどこかで見たことあるな~と思っていたそうです。東雲さんは風池に寄られるという事で、丸山方面へ登って行かれました。私はここからいったん真の谷に下りて行きます。

 

 真の谷も水がたくさん流れた跡がありましたが荒れているほどではありません。咲残りのアケボノソウが咲き、足元には山栗がいっぱい、山も豊穣の時を迎えています。

 

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アケボノソウ

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山栗がいっぱい

 

 真の谷テン場を過ぎて白船峠からまっすぐ下って来た谷と出会う辺りテーブルランドへの斜面に取り付きます。冬場には汗と鼻水を流しながら必死に登る斜面ですが、今日は木漏れ日の中、のんびり歩いて(それでもけっこうきつかったのですが)行きます。

 

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真の谷、テン場

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色づきかけた樹林の斜面を登る

 

 のんびりとは言っても今日はなんだか蒸し暑く、途中で何回も立ち止まって休憩です。背後の藤原~冷川谷の頭の稜線には雲がかかっています。やがて頭上の樹林に切れ目が見えてきたなと思ったらそこがテーブルの縁になります。ようやく這い上がるとそこには誰もいない草原が広がっていました。

 

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テーブルランド

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咲残りのトリカブト

 

 ここからはテーブルの縁にそって時計回りに歩きます。東のボタンブチから眺める藤原岳、竜ヶ岳は湿った空気とまだ夏のような雲に覆われ何だか遠くの山のように見えます。

 

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東のボタンブチからの眺め

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なんだか夏みたいな雲

 

 国道が開通したのでここまで歩いてくる人もいるかなと思っていましたが、まだ誰もやってこないようです。昔は背丈ほどあったという笹も今は膝下までしか無く、自由気ままに歩いてもさして抵抗はありません。草原に島のように浮かぶ樹林がほのかに色づいています。

 

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色づき始め

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ボタンブチを見る

 

 笹原には人のものか獣のものかわからない踏み跡が縦横に走っています。知らず知らずのうちに踏み跡をたどって行くといつしか池に導かれます。おそらく水を飲む鹿の道になっているのでしょう。最初に出会ったのは東池。せっかくなので幸助の池にも立ち寄ります。

 

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東池

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幸助の池

 

 幸助の池でようやく人に会いました。どうやら東のボタンブチへの道を相談していたようで、南から現れた私を見てすぐに道の様子を訪ねてきましたが、道はないけど歩いて行けますよ、とだけ答えておきました。近くのボタンブチではたくさんの人がランチを楽しんでいるらしく、明るい話声が聞こえはじめました。

 

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奥の平

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ランチでにぎわうボタンブチ

 

 ボタンブチでは数パーティーが集まってワイワイお昼ごはんを楽しんでいましたが、今日は静かな方がよかったので少し離れた天狗のハナで一人で食事にします。涼しいと思ってラーメンを作りましたが、思ったより気温が高かったので汗をかきながらラーメンをすすります。丸山の方は紅葉が始まりかけています。

 

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紅葉が始まりかけている

 

 お昼ごはんのあとは風池に向かいます。丸山のちょうど南にあり、御池岳西斜面の縁にひっそりと佇む池です。いつも気持のいい風が吹いていて、K先生が風池と名付けたのがわかるような気がします。


 もう東雲さんはいないかなと思ったら、傍らに女性の方が昼食中でした。ひとりの所を邪魔してしまったかなと思ったらまたまた「たろーさん?」と声をかけられてしまいました。とっちゃんさんでした。とっちゃんさんもK先生を偲んで御池に来られていたようです。

 

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ヨメナ

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風池

 

 池の傍らに座って少しだけ話をしますが、あまり言葉はでてきません。池の上を流れる風が気持ちよく通り過ぎて行きます。しばらくじっと風とお日様の暖かさを感じ、元気に山歩きができる事のしあわせを改めて思いました。もうしばらくここにいるというとっちゃんさんと別れて出発です。まずは池銀座をぶらぶらして「みぶな野」によって帰ります。

 

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池銀座へ

 

 ガサガサと草をかき分けて歩くとすぐ先を鹿が駆け去って行きます。白いお尻だけが目に残ります。無意識のうちに登りを嫌って谷筋を歩いて行くと自然と池に行きあたります。最初は中池、そして南池、他にも見ましたがはっきりわかるのはこの二つ。立派な池に出たなと思ったらそこは真の池ですぐ脇に登山道があります。

 

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中池

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南池

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真の池

 

 ここからははっきりとした登山道を歩いて鈴北岳まで。日差しも強くなり日本庭園辺りの苔がきれいな緑色に輝きます。青空も広がりいい感じです。ほんの少し斜面を登れば鈴北岳です。

 

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日本庭園あたり

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北岳

 

 みぶな野とは一部の人が勝手に呼んでいるだけの呼称ですが、鈴北岳の北東部の斜面に同周り2mを越す鈴鹿では立派なぶなが3本立っているコバの事をさします。春にヤブコギネットで報告されていたのですが、訪れるのは今回が初めて。鈴北岳から県境稜線を少し東へ進み、最初の小ピークから北東に張り出した尾根を下って行きます。ぶなは尾根芯より東側にあるようです。


 小ピークからコンパスので方向定め下って行きます。獣道らしく踏み跡はありますがすぐにシダに覆われてしまいます。雰囲気的には○○野なんて感じの開けたところは見当たらないので、外したかな?と思っていたら、周りにぶなの木が現れ、その中に立派な木が立っていました。

 

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みぶな野のぶな①

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枝ぶりが立派だねえ

 

 抱きついて大きさを測ってみると、とても一人では抱えきれない程の太さなのでここに間違いないでしょう。同じくらいの太さの木が近くにもう一本。少し離れてさらにもう一本ありました。先週は台高で立派なぶなをたくさん見てきたので、最初は太いという印象を持たなかったのですが、しげしげと眺めているうちにその存在感が増してきます。


 しばらくぼんやりとぶなを眺めていましたが、そろそろ下山にかかるとしましょう。ここからは適当に下ってタテ谷に合流します。鈴鹿らしい雰囲気のいい2次林に杣道とも獣道ともつかない薄い踏み跡をたどって歩くのは何とも楽しいです。


 タテ谷道は歩く人も少なく、コグルミ谷との合流部付近の急斜面には辟易しましたが、なんとか降りる事が出来ました。コグルミ谷道に合流してからはあっと言う間に登山口です。

 

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タテ谷

 

 車に戻って靴を履き替えて、国道306を下って行きます。犬返し橋の自転車はまだあります(後で秋狸さんの自転車と判明)。久し振りの単独行は静かにいろいろな事を考える山行でした。そして、いつも楽しく遊ばせてくれる鈴鹿の山に改めて感謝する山行でもありました。これからの紅葉シーズン、足しげく鈴鹿に通う事にしますか。