晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

三国のぶなを訪ねて (烏帽子~三国縦走とダイラ)  2005.11.19

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三国のぶな(鈴鹿で一番大きい?)

 

<メンバー>
単独

 

<山域>

 

<コース>
鐘釣谷~烏帽子岳~県境縦走路~三国岳~阿蘇谷(ダイラ)~時山

 

 先日、お気に入りのHP 鈴鹿樹林の回廊 の中で鈴鹿一のぶなの木が紹介されていた。鈴鹿通の間でも「鈴鹿一大きなぶな」とされている。「鈴鹿がホームグラウンド」を自称している私としては、是非、見に行かなくてはいけない。

 

 そのぶなは烏帽子岳と三国岳の間の県境縦走路のどこかにあるらしい。ピストンはつまらないので、烏帽子岳から周回することにする。紅葉前線は地表まで降りてきており、山上での紅葉は期待できないが「ダイラ」あたりはまだ間に合うだろう。三国からの帰路に寄る事にする。ざっと見て6時間コース。靴も新調したので足慣らしも兼ねよう。

 

 烏帽子岳へは鐘釣谷から上がる。エアリアでは一般登山道になっているが、登る人は稀なようで荒れている。取り付きは岩屑の堆積した急斜面を半分藪をこぎながらの急登となる。

 

 谷を渡ってからは右岸の尾根への取り付きとなるが、トラロープがこれでもかというふうに固定されている。尾根へ上がってからも樹林のせいで展望は無く、面白みの無い登りが続く。しかし、標高400m付近では紅葉がまだ見頃だ、おなじみのシロモジが葉を黄金に輝かせている。

 

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鐘釣谷右岸の尾根

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紅葉前線はかなり下の方まで降りてきている

 

 傾斜の急な尾根を上がっていくと、どうもいつもと様子が違う。歩き方がぎこちなく、足の疲労が大きい。新調した靴はカットの高い重登山靴だ。底が固く、斜面に対しての足の置き方が今までと違う。また、高いカットが脛に当たって痛い。新品なので慣れるまである程度覚悟していたが、結構きつい。

 

 やっとの思いで「熊坂長範の見張り場」と呼ばれる岩場まできた。熊坂長範は平安時代末期の盗賊で、烏帽子岳山頂に屋敷を構えていたという伝説があるが、どうも史実とは異なるらしい。真偽の程は不明。

 

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見張り場からの展望
林立する鉄塔と植林のパッチワークが不自然

 

 見張り場から烏帽子岳山頂はすぐだった。天気は冬型の気圧配置特有の雲行きで、伊吹、霊仙方面から厚い雲が流れ込んでくる。風も強い。おまけに靴との相性で足が痛み、2時間かかってしまった。昼食もほどほどに三国岳へと向う。

 

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三国岳への縦走路
階段がついている

 

 三国岳への縦走路は一本尾根を南東へ向って行く。途中に鉄塔があり鉄塔巡視路を兼ねているようだ。簡易的な階段が設けてある。やせ尾根のアップダウンを繰り返し、途中の岩は巻き、三国岳へ向う。縦走路付近はすっかり落葉しているが、斜面の下方は黄葉の絨毯が敷き詰められ、見事な景色を作り出している。

 

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落ち葉の絨毯

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目指す三国岳


 縦走路に入って1時間以上経過した。くだんのぶなは岐阜県側(尾根の右側)にあるという。鈴鹿最大といわれるほどの巨木を見落とす訳は無いなと思う一方、既に見落としたか、と思っていると2本の大きなぶなのある鞍部にでた。これだ。尾根からほんの少し離れているだけで、気にしていれば見落とすことは無い。早速近づいて眺めて見る。

 

 

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 三国のぶな
周りの木の太さと比べてみてください。

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三国のぶな(近影)

 

 第一印象は「思っていたほど大きくないな」だったが、近寄り、抱きついてみて、その大きさが伝わってくる。私が両手で抱えても半分届くかどうかなので、胴回りは3m以上、直径は1m以上あるだろう。樹齢はどれくらいなのだろう。木のことは詳しくないが相当古いのは確かだ。

 

 ここで、雪がぱらついてきた。不安定な天気で雨ぐらいは降るかな、と思っていたら雪だった。頭上の雲は厚くない。伊吹辺りから風に乗って飛ばされてきたものだろう。しばし、ぶなの巨木の下で雨宿り(雪宿り)。

 

 これで、第一の目標は達成した。ここからは三国岳への登りである。足の痛みはピークに達している。靴を脱いでテーピングを試みるが気休め程度。少し登ると平坦部にでた。ここでも落ち葉の絨毯が素晴らしい。再び急登の後、稜線へとびだした。

 

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三国岳手前の平坦部、木々はすっかり落葉している

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三国岳への最後の急登


 稜線を左側に進んで三国岳山頂へ到着。足が痛むので後は下りだけだと思うと気が楽だ。

 
 ところで、三国岳は奇妙な山だ。ここで三国岳山頂といっているのは、本当の三国(三重、岐阜、滋賀)の県境が接するピークをさす。近くには別の「最高点」というのがあり、三角点もまた別の位置にある。紛らわしい。

 

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三国岳山頂、この周りを歩くと、わずか1分で3県を巡ることが出来る

 

 三国岳山頂から三角点に向って少し下り、そこから阿蘇(あんぞ)谷へ向う山腹道へ入る。ここからの下りは見事な落葉の登山道となっていた。いい具合に太陽も顔を出している。

 

 フカフカの落ち葉の絨毯を踏みしめ、あたりの紅葉、黄葉に目を奪われながらゆっくりと下って行く。
 

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落ち葉の小道①

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落ち葉の小道②

 

 谷へ向ってどんどん高度を下げて行くと沢の音が聞こえてくる。阿蘇谷の水流だ。ここから谷筋に少し進むと「ダイラ」の入り口にでる。やがて、用途不明の四角い石組と窯跡が見えてくると左側に2次林に覆われた平坦地「ダイラ」に出る。

 

 標高500m前後のこの辺りではまだ黄葉も見事だ。落ち葉は地面を完全に覆い尽くしている。落ち葉の絨毯のなか、半ば傾きかけた日差しが木々の間からこぼれている。この空間全体が黄金色に包まれているようだ。

 

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ダイラの黄葉①             

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ダイラの黄葉②

 

 突然、頭上の稜線の木々が風にざわめきだした。そのざわめきは徐々に斜面を下ってきて、ついに目の前を通り抜ける。風が山腹を駆け下りてくるのがわかる。山に入っていてこそできる体験だ。風の通り抜けたあとは再び静寂が辺りを包む。落ち葉が無数に舞い落ちる音だけが耳に入ってくる。まさに癒しの空間だ。日没までここにいたい。
                 

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ダイラの黄葉③

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ダイラに黄葉④
                 
 足元にはきのこが顔を出している。一見おいしそうだが、きのこに関しては全くの無知である。写真に撮るだけにする。
         

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くりたけ?

 

 登山道を離れてダイラに中心部に行くか、このまま阿蘇谷を下るか迷ったが、時間は既に夕暮れに近く、この先にあるワサビ田の跡や現役の炭焼き窯も見たいので、ダイラは入り口だけにとどめ、流れに沿って下って行く。

 

 谷沿いの道を下り、朽ちた丸木橋を越えると、場違いな有刺鉄線が現れその向こうに谷の中に段々に汲んだ石組みが見える。ワサビ田だ。こんな山奥に、とも思うがだいぶ下界に近づいてきたのだろう。様子からみて今は使われていないようだ。ここまで仕事に来るだけでも大変だっただろう。
                

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ワサビ田

 

 更に進むとあばら家が二つ見える。炭焼き窯だ。石組みだけの窯跡は鈴鹿のいたるところで見るが、これは最近まで稼動していたようだ。しかし、現在は使われていない。

 

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炭焼き窯

 

 ここから時山集落までは30分程度だろう。もう集落の生活圏入っているようで道も広くなりしっかりしている。やがて「サンマイ」と呼ばれる火葬場の跡を過ぎると時山集落にでる。

 

 ここから、車を止めた烏帽子岳登山口まで20分の車道歩きとなる。牧田川の向こう側の猿登の斜面が紅葉で真っ赤に燃えていた。
                

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紅葉に燃える斜面

 

 足の痛みは相当なものに達していたが、慣れるまでの辛抱だ。長い付き合いになるだろう相棒との相性が少し気になった今回の山行であった。
                 

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今回のルート①(カシミール3D使用)

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今回のルート②(カシミール3D使用)