晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

秋の北鈴鹿 茨川から茶屋川、藤原岳 2005.11.05

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茶屋川の流れ

 

<メンバー>
単独

 

<山域>

 

<コース>
青川キャンピングパーク~休みコバ~日ノ岡稲荷~治田峠~茨川~茶屋川~蛇谷分岐~藤原岳西尾根~藤原岳展望丘~県境縦走路~治田峠~日ノ岡稲荷~休みコバ~青川キャンピングパーク

 

 鈴鹿は古来から伊勢(三重県)と近江(滋賀県)を結ぶ交通の要所だった。しかも東海道中山道などの大街道ではなく、付近の村人、商人、杣人、鉱山労働者などが行きかう峠道だったようだ。

 

 主なもので千草と甲津畑を結ぶ千草越、八風峠、などがあるが、山間の村「茨川」の生活道路でもあった治田峠は最も興味深い道である。今回は茨川の人々が昔歩いた道をたどり、茶屋川の紅葉を見物しようとコースを決めた。

 

 青川キャンピングパークから林道に入ろうとするといきなり通行止め。仕方なくキャンピングパークの駐車場に車を止め、休みコバまで林道を歩くことに。これで30分のロス。

 

 休みコバから登山道へ入るがしばらくは河原歩きだ。といっても川幅いっぱいに土砂が埋め尽くしている。この河原は昔はキャンプ場だったらしい。今でも焚き火の跡があり、ここでテントを張る人もいるようだ。

 

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広河原を歩く

 

 しばらく歩いていると、どうも前回歩いた時と印象が違う。前は何回か渡渉を繰り返した記憶があるが、いつまでたっても土砂に埋め尽くされた河原が続く。いい加減うんざりしたところで、地表から頭からだしている道標を見つけて合点がいった。大量の土石流で川が埋め尽くされていたのだ。

 

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土石流の猛威


 ここで河原から登山道にもどる。この辺りは治田鉱山が稼動していたころの遺構が残る場所だ。「下り藤」という歓楽街があった平坦地を抜けると手堀のトンネルがある。鉱山主が山へ通路として掘らせたという。少し気味悪いが足早に通り抜ける。

 

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手堀りのトンネル

 

 やがて、江戸時代の鉱山事務所があったという「日の岡稲荷」を越えると、道は杉の大木の間の古道から急登の山道へと変わって行く。登山コースとしてはメジャーではなくあまり歩く人もいないが、道はしっかりしている。やはり数百年歩かれ続けた道である。

 

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日ノ岡稲荷

 

 急登を息を弾ませながら登る。足を一歩踏み出すたびに落ち葉や枯れ枝を踏む「カサカサ、ポキポキ」という音する。他に登山者は無く静寂の中に自分の足音だけが山中に響く。峠間近になると木々の葉も色づき、雰囲気が良くなってくる。
 

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峠は間近

 

 治田峠から茨川へ下りるには伊勢谷を下る。急坂を慎重に降りて行くと小さな流れに出る。あたりの雰囲気は更に山深くなり、紅葉が美しくなってくる。

 

 難を言えばテープ、ビニール紐のマーキングがやたら多いことだ。数メートル毎についている。

 

 また、前回、谷を埋め尽くしていた倒木もすっかりなくなっている。大きく変わったものだと思っていたら急に谷が開け、砂防ダムにぶつかった。工事は上流に向ってどんどん進んでいるようだ。何のための工事なんだろうか?

 

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伊勢谷の紅葉

 

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 無人の山間にも工事が進む

 

 工事現場のすぐ先に「茨川」跡がある。昭和40年まで村として存続していたという。当時の建物はほとんど朽ちてしまっているが、一部は名大のワンゲル小屋になっている。林道が通じ、車でここまでこられるので写真撮影やバーベキューを楽しむ人もいる。

 

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まだ村だった時の建物

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名大ワンゲル小屋

 

 ここからは長靴に履き替えて茶屋川をジャブジャブ歩く。川の傾斜はほとんど無く、玉砂利のような川床を頭上の紅葉を眺めながら歩く。

 

 紅葉の最盛期には若干早いが、足元をさらさらと流れる茶屋川のせせらぎと頭上を覆う広葉樹林の葉、そして木漏れ日の中、落ち葉がひらひらと舞い落ちる。まさに日本の秋がここにある。

 

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森の奥からとうとうと流れてくる

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歩き始めからいい雰囲気

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今回の秘密兵器 長靴

 

 緩やかな流れは心地良いせせらぎとなり、時折吹く風が枝を揺らし、落ち葉が舞い落ちる。写真を撮りながら歩いているとなかなか先に進めない。こんな天気の休日なのに登山者はいない。最高のロケーションを独り占めにして歩く。

 

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茶屋川①

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茶屋川②

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茶屋川③

 

 徐々に両岸の岩壁が迫ってくると蛇谷分岐が近い。やがて左右両側から流れが合流している場所に着く。ここから藤原岳西尾根に取り付く。

 

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川幅が狭くなってくる

 

 藤原岳西尾根への取り付きは道無き道の急登となる。前に進めない程の藪ではないが自分で歩きやすいところを選んで右へ、左へ道をとる。これまでの平坦な歩きから一変しての急登りに汗が噴出す。
高度を上げるにつれ周りの景色がどんどん金色に包まれてくる。黄色の葉が太陽に輝いているのだ。

 

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黄金のコバ

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落ち葉の絨毯と黄金に輝く樹林

 

 登りはいくぶん傾斜を緩め歩きやすくなってくる。落ち葉を踏みながら風の音を聞いていると宮沢賢治の「どんぐりと山猫」の情景が目に浮かぶ。

 

 やがて、平坦になったコバで人の声がかすかに聞こえる。辺りを見渡してもだれもいない。上の方を見上げるといつの間にか藤原岳が紅葉で真っ赤に燃える姿を見せていた。目を凝らすと展望丘らしいピークも見える。声はそこから聞こえてくるのか。

 

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紅葉にもえる藤原岳

 

 息を切らして一気に藤原岳展望丘まで登りつめる。頂上直下は露出した石灰岩と潅木でとても歩きづらい。枝をポキポキ折りながらようやく見慣れた展望丘に出る。

 

 時間は13時をまわっているが、記念撮影をしている人など結構人がいる。藤原山荘からは賑やかな歓声が聞こえる。御池から天狗岩、藤原山荘のパノラマにしばし見とれたあと、県境縦走路へ降りて行くことに。

 

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展望丘からのパノラマ、御池~天狗岩~藤原山荘

 

 県境縦走路は尾根ではなく滋賀県側の山腹をトラバースする。急斜面の降下は神経を使い、景色を眺めている余裕がなくなるが、ここにも過剰なほどのマーキングがあり、道に迷う心配は無い。一息つけば、孫太尾根の長大な姿を見ることが出来る。

 

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孫太尾根

 

 治田峠までの道は紅葉の中、落ち葉を踏みしめての歩きとなる。斜面を下りきったあとは山腹のトラバース路を歩く。景色には少し飽きてきた。

 

 それに展望丘で岩にぶつけた膝の痛みが少しずつ増してきた。帰り着くことを最優先に歩を進める。途中にはとても立派な道標があり、現在位置を教えてくれる。

 

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県境縦走路

 

 治田峠へはコースタイムより少しかかった。膝の痛みがけっこうきつい。ここからは急な下りなので、膝をかばいながら着た道を引き返す。休みコバから青川キャンピングパークへの林道歩きは結構堪えた。

 

 車に着くと驚いた。青川キャンピングパークは大きなキャンピングカーがぎっしり、多くの団体がバーベキューの準備をしている。

 

 今日は結局8時間と少し歩いた。久しぶりの鈴鹿8時間耐久レースだ。天気にも恵まれ歩き応えのある山行であった。
 

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今回のルート