晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

谷尻谷からイブネ  鈴鹿最深部を歩く-2 (鈴鹿大パノラマを独り占め )  2005.09.18

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イブネから雨乞岳を望む

 

<メンバー>
単独

 

<山域>

 

<コース>
鉱山跡(泊)~サブクラ谷~イブネ・クラシ中間部~イブネ~佐目峠~杉峠~コクイ谷出合~上水晶谷~根の平峠~朝明P
 
 テントの中では自然に目が覚めた。時間は5時50分。もう夜は明けているようだが谷の中はまだ薄暗い。昨日の疲労で体中がバキバキになっているが、朝早く出なければテント泊の意味がない。朝食を取りテントを撤収し、まだ重い体を動かす。
 
 一番左の谷を上って行く。既に水流は細くなり、岩礫が転がる谷をよろけながら歩く。まだ、体が起きていないのできつい。10分ほど歩くと左側の山肌にポッカリと穴が開いている。入り口付近には鉱石っぽい岩屑が散乱している。これが鉱山の鉱口らしい。

 

 穴に入る人はここまで登ってきたのか?ここから掘り出した鉱石はどうやって運び出したのか?昔の人は今では想像もつかないことを人力でやっていたようだ。

 

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鉱山への入り口、不気味な穴がポッカリと開いている。

 

 谷をどんどん詰めて行くとやがて平坦部が広がってくる。右側の緩い草付の斜面に日差しがあたりだした。いままでの谷中の暗い雰囲気が一気に明るくなる。
 

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朝日があたりだした。

 

 ここからは谷を離れ、斜面を登って行く。空がだんだん広がり頂上が近いことを教えてくれる。斜面には獣道が縦横にはしっており、そのとおりに歩けば比較的楽に歩くことができる。ようやく斜面を登りきり、台地の上にでた。位置的にはイブネとクラシの中間地点だろう。

 

 平成4年の記録では猛烈な伊吹笹の藪であったとあるが、今は笹がすっかり枯れてしまい、草原のようになっている。

 

 天気は快晴で青空が頭上一面に広がっている。北を見れば銚子ヶ口、その向こうに御池岳、東を見れば鎌から御在所の鈴鹿主脈が朝日を浴びて雄大なシルエットをこちらに見せている。南には雨乞岳、西には綿向山がくっきり見える。

 

 誰もいない鈴鹿最深部台地を一人闊歩していると実にいい気分だ。ぶらぶら歩きながら、写真を撮る。

 

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鎌ヶ岳~御在所朝日をバックに)

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雨乞岳~鎌ヶ岳

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銚子ヶ口、銚子、クラシ

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イブネの丘、昔の強烈な笹薮も今ではこんなふう

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綿向山、山頂ケルンまでくっきり見える

 

 イブネ北端からイブネまでのびり歩く。視界をさえぎるものは何もなく、出会う人もいない。時間さえ許せばここにもう一晩テントを張って中秋の名月を見物したいのだが、食料もないのであきらめる。

 

 ここからは杉峠に向かってゆっくり下るだけである。だんだんと近づいてくる雨乞岳の巨体に圧倒されながら、佐目峠をめざす。
 

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雨乞岳へ向かって草原を歩く

 

 佐目峠付近で休憩。近々ここでもテント泊をやりたいので辺りを下見する。たくさんのテントが張れる平坦地は少ないが、近くには水場もある。今度は星を見に来よう。

 

 杉峠へ到着。峠の老杉はまだ健在だ。ここまでくれば一般道になるのでなんだか帰ってきたような気分になる。雨乞へ寄り道する体力も残っていないので、素直にコクイ谷出合まで下る。

 

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杉峠の老木

 

 そういえば、この道沿いにも大規模な鉱山飯場跡があったはずだ。今まで通過しているだけだったが今日は時間的には余裕があるのでじっくり見ていく事にする。
                
 しばらく登山道を歩いていると急に石組が周りに現れ始める。良く見渡せば斜面を平坦にするための石組みがたくさんあり、小さな町の跡のようだ。足元には食器や一升瓶が散らばり、ここで暮らしていた人たちの何かが感じられる。
 

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石組みが無数にある

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用水路の跡

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徳利も落ちている。明らかに生活の跡だ。

 

 更に歩くと立派な石段が現れた。登ってみると祠を祭ったような小さな石垣が残っている。神社の跡のようだ。その向こうには、更に幅の広い石段があった。この上の平坦地は結構大きくな建てものがあったようだ。鉱山会社の建物か、何らかの公共の目的に使われたものか?

 

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神社?につながる石段

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祠を奉った跡?

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更に大きな石段、もう木がしっかりと根を生やしている。

 

 一通り鉱山飯場跡をうろついた後は帰路を急ぐだけである。コクイ谷出合では3人の登山者と出会った。いずれも男性の単独行。こちらが小休止し行動食を食べている間、彼らもタバコを吸ったり流れを眺めたりしているが、何故か皆無言。(単独行者は自分を含めてこんなもんかな)

 

 休憩も程ほどに、あとは上水晶谷を越え根の平峠までの道を歩くだけだ。登っているのか下っているのか判らないほどの緩い傾斜を歩き、根の代の巨杉を見る。このあたりにも昔、集落がありこの杉は御神木だったという話しを聞いた事がある。

 

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根の代の御神木、幹の太さはどれくらいだろうか?

 

 根の平峠から朝明までは慣れ親しんだ退屈な道を下るだけ。朝明のキャンプ場ではまだまだ暑いのか、たくさんのデイキャンパーが子供連れでバーベキューと水浴びを楽しんでいる。半日前には人っ子一人いない場所で泊まっていたのに、昼過ぎにはこの賑わいの中にいる。なんだか不思議な気がする。

 

 朝明駐車場の近くに出来た「三休の湯」で二日分の汚れを落とし、さっぱりした後、朝明を後にした。

 

 今回の鈴鹿最深部単独テント泊は自分の興味が赴くままに好きなように歩くことが出来た。鉱山や炭焼きなどの人々がどのように鈴鹿と関わっていたのか、ますます興味を深めた今回の山行だった。

 

 快く送り出してくれた妻と、晴天に恵まれた天気に感謝。