晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

大峰 葛川 【事故報告】 2016.07.10

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 増水のゴルジュ

 

<メンバー>
サークル 10人+3人

 

<山域、形態>
大峰 沢登
 
<コース>
東野トンネル西側(9:10)~入渓(9:25)~遡行断念(11:25)~林道
~下降点(11:40)~撤収(13:10)
 
<天候>
晴れ

 

 今年の夏は泳ぎ渓の夏にしよう。そう目論見、まだ梅雨が明けきらない7月上旬に企画したのは大峰の葛川。サークルのメンバーは泳ぎ主体のゴルジュ沢を経験していないのでどんな様子か体験してもらおうと考えた。

 

 その思いが伝わったかどうかサークルのメンバー9人が参加表明をしてくれた。ちょっと人数が多いかな?というのもあったが沢仲間のSクリームさん、michi君、S籐さんという助っ人もあるので何とかなるだろうと考えた。
 

 しかし前日は近畿、東海を中心に100mmを超す雨、さんざん悩んだが何処に転進しても増水しているだろうと思い、とりあえず現地に行って判断という事にする。
 

 みんな集合し、駐車地から谷に降りて行くと水は轟々と流れていた。見ただけで遡行は無理だと思ったが、とりあえずゴルジュの入り口を除いてみる。
 

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入渓点の様子

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とりあえず泳いで侵入してみる
 

 苔の生え具合からして平水よりも50cm以上ある。とりあえず1ピッチでも進んでみようとロープをつけて泳ぐ。水流は相当きつく普通に泳ぐのでは完全に無理。側壁にも手がかりが無いので結局20mも進めずに敗退。泳ぎ下って入渓点に戻る。とりあえず泳ぎ沢がどんなものか、水流の怖さが分かってくれたかなとこの時は思った。

 

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こんな感じ

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トライするも手も足もでず

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みんなトライしてみる

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戻るときは泳いで・・(これがいけなかったか)
 

 時間はまだお昼前、このまま帰るのも勿体ない、遡行は無理なら下降はどうかと考えてしまった。この時点でたくさん集まってくれたメンバーの期待に応えようと誤った判断をしてしまう。
 

 林道を10分位上流に歩き、適当な所で斜面を下って河原に降りる。沢は激流状態になっていてやはり遡行は無理、少し下流に先ほどのゴルジュの出口が見えるので、様子が分かる所まで下って見る事にした。
 
 距離は20m程。基本、左岸の岩を歩いていけば問題無いが最初に水に浸かる所があったので自分が先頭でロープを引いて行く。
 

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下降を試みるも

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事故直前の写真
(画面一番奥の大岩の右に流された)
 

 河原で先のゴルジュの様子を見ながら後続にもこちらまで来るように合図を送る。みんなロープにカラビナを通し下って来る。
 

 私を入れて5人が河原につき、やはり同じように先のゴルジュを見ていたら後ろで声が聞こえた。振り返ると8人目のメンバーがなぜか水に流されながら下って来るのが見えた。これはまずいと思い、ロープを引くが、本流側の大岩の向こう側に引き込まれたようで、もうびくともしない。どうやら3人(男性一人、女性二人)がまとめて流され、ロープに繋がれたまま水にさらされた状況になってしまったらしい。岩の向うの様子は私からは見えない。
 

 私自信身動き出来ないので残りのメンバーに救助を頼むが、水流に押さえつけられている人間を中々引っ張り上げられない。そうこうしている内に水中にいるメンバーのうち、屈強な男性メンバーが女性二人を何とか岸に引き上げたが、一人はしばらく頭が水没していたらしく、引き上げた時には意識が無かった。
 
 正直もうだめかと思ったが、呼びかけると目をパチッとあけ、呼吸をした時には心底ほっとした。全身に倦怠感と頭痛があるようだが、水は飲んでいないようだ。メンバーと協力し林道まで運び上げ、電話の繋がる所まで車を走らせる。溺れたメンバーも自分で歩ける位に回復していたので地元の救急外来にかかって異常の無い事を確認。
 

 今回の事故原因は、流されたメンバーのうち一人が誤って水中に入り本流に引き込まれ、後続の2人も同じように連なって行ってしまった事が直接的な原因だ。
 

 しかし、水の怖さを理解していない初心者を連れ、10人以上の大所帯で増水した谷に入ってしまった事、そして「悪場の行動は一人、残りのメンバーはフォロー」という沢の基本中の基本をパーティーとして取れていなかった事が最大の原因。
 

そこには
 

・せっかくこれだけ人数が集まったのだから
・せっかく遠くまで来たのだから
・自分たちは大丈夫
 

という典型的な遭難につながる心理状態があった。
 

 今回は幸運にも仲間の命を失わずに済んだが、沢は一歩間違えれば直ぐに死につながる危険な遊び。自分に何が欠けていたか、これから何をすべきかもう一度考え直さなければいけないと思った。
 

 ※沢や山をやる方の少しでも参考になれば幸いです。