晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

御池岳 遭難者捜索5 ゴロ谷周辺  2012.04.28 晴れ

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 ボタンブチにて

 

<はじめに>
今回の記録は公表しようか迷いましたが、ネットを通じて情報提供を呼び掛けた手前、発見に至った状況については知っておいて頂いた方が良いと判断しました(断片的な情報での不要な憶測を避ける意味からも)。遭難者や捜索に携われた方への批判、興味本位での入山は絶対にしないでください。
 

<メンバー>

山仲間 3名 +捜索隊の方々
      
<山域、形態>

鈴鹿、遭難者捜索
 

<コース>

御池橋(09:11)~アザミ谷出合い(9:35)~二の沢出合(09:50)~テーブルランド(12:10)
~昼食待機~ボタンブチ待機(13:00~13:50)~発見現場(14:20~16:05)~三の沢出合い(16:50)~御池橋(17:25)
 

 雪解けが進み進展があるかと思われた捜索活動も手掛かりすら見つからないままに4月も後半に入ろうとしている。


 そんな中、ボタンブチ下、ゴロ谷の第4尾根付近で遭難者のものと思われるオーバー手袋が見つかったとの連絡が入る。場所は急斜面、落石多発地帯なので、捜索はロープ、ヘルメット、ハーネス装備が必要との事。入れるメンバーも限られると思い、捜索に参加する事にした。
 

 宇賀渓で車を乗り合わせ、御池橋まで車を進める。捜索はゴロ谷の右岸(テーブルランド側)の支流を分但して遡り、谷筋の消える950mより上はトラバースによるローラー作戦を行う予定。我々は三人でチームを組み、二の沢を分担する。足元をサラサラと流れる御池川は前日の雨で水量は多めだ。
 

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P1.御池川の流れ
 

 アザミ谷の出合いを過ぎ、すぐに二ノ沢出合いに到着。谷からは大量のガレが押し出されている。ガレた河原を歩いて行くと滝が現れた。今日は谷と言っても水はほとんど涸れているだろうと思い登山靴できたのだが、沢靴の方が良かったかも知れない。
 

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P2.ゴロ谷

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P3.二の沢入り口

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P4.滝がでてきた
 

 それほど難しい谷では無いので慎重に足を運べば特に問題は無い。日陰にはまだ雪が残っているが、日向は花が咲いている。もうすっかり春と言うより初夏だ。

 

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P5.日陰に残る雪渓

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P6.ちょっとした滝場に

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P7.沢靴の方が良かったか?
 

 標高800mを過ぎると傾斜が立ってきたので自然に尾根逃げる形になる。立木を手掛かりに体を持ち上げる。谷は滝と言ってもいいほどの傾斜になり、上部の崩壊も酷い。

 岩は脆く一筋縄では行かなくなってきた。慎重にルートを見極め、掘り起こした木の根を掴んでのモンキークライム(汗)。何とか右岸側にトラバースし傾斜が緩んだ所に出た時は本当にほっとした。標高は970m。

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P9.傾斜が立ってきた

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P10.強烈なガレだなあ

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P11.さあ、どうする

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P12.良くこんな所登ってきたもんだ・・
 

 本来ならばトラバース作戦に入る標高だが、一旦テーブルランドが見える辺りまで登る事にする。急斜面ではあるが地形図で想像したよりも歩けそうだ。途中、鈴鹿では珍しいキバナノアマナを見る事ができた。
 

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P13.斜面はトラバース気味に

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P14.キバナノアマナ

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P15.テーブルランドの縁が見えた
 

 登っている途中に無線連絡が入る。四の沢隊が谷中でストックとテントの袋を発見した。一気に緊張が高まる。場合によっては四の沢へ応援と言う事もあるので、一旦テーブルランドに上がり昼食がてら待機。テーブルランドはすっかり春の風景に変わっていた。

 

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一旦テーブルの上に上がって昼食
 

 無線で各隊の同行が伝わってくる。三の沢隊はボタンブチ直下を捜索後、既にテーブルランドに上がっている。四の沢隊は相当苦戦中。
 テーブルランドの上はポカポカの太陽と青空そして少しの風。捜索でなければここで昼寝をするのもいいなあ・・と思っている所についに発見の報が入る。ボタンブチに急行する。

 

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風池
 
 ボタンブチには三の沢隊や山頂支援隊が集まっていた。本流隊は四の沢隊の応援に向かっているらしい。御池橋の本部が鈴北の中継局経由で警察と連絡を取っている。警察の動向が決まるまで一旦待機。今日は絶好の山日和なのでハイカーの方もたくさん見えている。

 

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ボタンブチにはたくさんの人が
 

 無線で確認した発見現場はボタンブチから直接視認できる場所のようだ。しかし、まだ木の葉が出ていないのにもかかわらず上からは全くわからない。樹林の中の視認性は想像以上に悪い。これではヘリで上から見ただけではわからないだろう。

 

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ボタンブチから発見現場を見下ろす(赤い×印)

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ボタンブチにて想う・・
 

 警察のヘリが飛ぶというので我々も発見現場に向かう。天狗の鼻の横から泥でぬかるむ急斜面を下っていく。落石に注意しながら降りるのは神経を使うが、それでも時々「ラクッの声」がかかる。
 

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発見現場に移動
 

 発見現場はボタンブチの直下、標高920m辺り。支谷と支谷に挟まれた尾根上で幅数メートルの平坦地にテントが張ってあった。Nさんはテントの中。全員で黙祷の後、線香を上げる。
 
 警察のヘリが飛んできたが状況を確認しただけで返っていった。現場は樹林が多く降下が難しかったのかもしれない。

 

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警察のヘリは偵察のみ・・
 

 捜索は明日になるというので(残っていてもする事は無い)捜索隊も下山にかかる。四の沢を大きくトラバースし、第4尾根を使って下山。対岸の尾根からテントのある場所を見たが樹林に阻まれて全く見えなかった。
 

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対岸の尾根から(とても見えない)

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ボタンブチ(下からは見えるのだが)
 

 これで2カ月半に渡った捜索活動も終了。長期に渡り捜索活動を指揮された三重県岳連の皆様、ボランティアで捜索活動に従事した鈴鹿の山を愛する人たちには本当に頭が下がる思いだ。今回の経験で遭難が如何に悲惨なものなのかも実感した。今後、自らが遭難しない為、仲間を遭難させない為には何ができるのか、もう一度考えて行こうと思う。
 

※非常に危険な場所なので、興味本位で近づく事は絶対にしないでください。