晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

イブネ 鈴鹿奥座敷一人テント泊 その① 2008.11.01-02

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 上谷尻の大滝


<メンバー>

単独

 

<山域>

 

<コース:1日目>
朝明~ハト峰~ヒロ沢~お金明神~コリカキ場~上谷尻谷~クラシ~イブネ(泊)

 
 紅葉まっさかりの3連休、山をたっぷり楽しもうとテント泊を企てていたが仲間が集まらない・・。天気は申し分無いのにみんな勿体無いなあ。仕方が無いので久しぶりに一人テント泊をする事にした。

 

 コースは3年前にも一度行った上谷尻谷からクラシ、イブネの鈴鹿深部探訪。今回の課題は上谷尻上部大滝の巻きルートの確認とイブネの台地から名古屋の夜景を見る事だ。
 
 前回は苦労して巻き上がった上谷尻大滝の上部に坑穴、飯場跡?があって驚いた。この坑穴と下流のトロッコをつなぐ物資の運搬ルートがあるはずだと考えた。このルートを見つければ楽にイブネ・クラシ台地まで上がれるはずである。

 

 そんな訳でザックにテント、シュラフ、食料、その他諸々の装備を詰め込んで朝明に向かう。9..2豪雨の影響で三重県民の森を迂回しなければいけないが、道路はきれいに整備され、あの惨状の痕跡は探さなければ見つけられ無い。

 

 朝明の駐車料金も500円のままだったので一安心。テント泊の場合は二日500円でいいそうだ。今日は三重県岳連の方が登山届けの受付をやっていた。通行不能のコースもあるのでチェックしているのだろう。腰越峠から国見に向かおうとしたハイカーがコースを変更するように説得されていた。

 

 朝明のキャンプ場の中はとりあえず平穏で、デイキャンプに訪れている家族連れもいる。ただ、伊勢谷小屋は結構な被害を受けたようで、入り口の駐車地には「ボランティア用駐車場」とあった。

 

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明キャンプ場の被害の一部


 猫谷の谷コースも思ったより荒れていた。途中、数箇所の山抜けがあり押し出された土砂で以前のルートが不明瞭になっている。特に二つ目のコンクリート製堰堤の上がひどかった。それでも樹林の中の石畳?の道は健全で普段と変わらない時間でハト峰に到着。まだ休憩するほど疲れていないので、そのままヒロ沢へ向かう事にする。

 

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猫谷の山抜け

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酷いなー

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土石流の起点

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ハト峰


 ヒロ沢までの道も何箇所か不明瞭になっている所があったが、歩くのには問題ない。途中、ハト峰に登っていく二人のハイカーとすれ違う。ヒロ沢は人っ子一人いない静かな世界だ。夏に何度も来ているが秋に訪れてみると何だかプール納めの後のプールのような、お祭りが終わった後の神社の境内のような、そんな寂しさがあった。紅葉の盛りはもう1~2週間先だろう。

 

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ヒロ沢

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愛知川の紅葉

 

 対岸に渡渉して左岸の登山道を使いお金谷を目指す。ここを歩くのも数年ぶりだが思ったより高巻いた道だった。流れは遥か下を流れトラバース状の登山道は結構アップダウンがある。快適だったのは大瀞から上流部だったか。

 

 お金谷の入り口は道標があるのですぐに分かる。オクムラさんの道標はずいぶんと色あせてしまっている。ここから薄くなった踏み跡を拾って谷を詰め、これまた踏み跡を辿って右手の尾根に上がると杉の巨木が現れ、お金明神とご対面だ。以前と変わらぬ御尊顔は風雪にも耐え、ずっと東を睨んでいる。一応金属精錬に携わる仕事をしているので、お金の神様に稼業の安定と繁栄をお願いしお金峠に向かう。

 

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お金明神への登り口

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雑木林の中を歩く

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巨杉と岩塔が

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お金明神

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神域であることを示す立札

 

 お金峠から石がゴロゴロで歩き辛い谷を下ると疎林の広がる平坦地に出る。沢の音を頼りに少し歩くと2条の小滝が合流するコリカキバに到着。ちょうどお腹も減ってきたのでここで昼食にする。ラーメンのお湯が沸く間、目を閉じ岩にもたれる。沢を水の流れる音と風が木の葉を揺らす音以外は何も聞こえない。ぼーっとしていると何だかこのままここに泊まってしまおうかという気にもなるが、当初の目的が何も果たせないので歩く事にする。

 

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谷尻谷界隈

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コリカキバ

 

 上谷尻谷はどこかダイラを思わせるなだらかな平地と2次林が広がり、その中を沢がゆっくりと蛇行している。足下には谷奥の鉱山から物資を運び出すのに用いられたトロッコのレールが朽ち果て、その傍らには忘れ去られたように鉄製の車輪が転がっている。わずか数十年前には、山のあちこちから槌音が響き、炭焼きの煙が立ち昇り、張り巡らされたレール網をトロッコ走り回る、そんな光景が目の前に広がっていたのかと思うと、何だかゾクゾクしてくる。

 

 トロッコのレールは傾斜が少ない部分を上手く狙って敷かれており。レール沿いに歩いていけばアップダウンは最小限。木漏れ日の下、落ち葉をサクサク鳴らして歩く。遠くで鹿の鳴き声が聞こえる。

 

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ロッコの車輪

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レールの跡

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森の奥に延びるレール

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昔を偲ぶ


 谷は何回か分岐していたがあくまでも本流を進む。両側が狭まり傾斜が少し出てきたなと思ったら上谷尻の大滝がバーンと現れた。前回来た時はその迫力と意外性にずいぶんと驚いたが今回も同じくらいの感動を与えてくれる。ザックを下ろし、じっくり写真を撮った後付近の地形の偵察に入る。

 

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とてもいい雰囲気

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上谷尻の大滝


 前回は滝のすぐ左のザレを攀じ登った記憶がある。奥村さんの絵地図では右側を巻いている。前回は滝のすぐ上に下から登ってくる道があった・・。今回もやっぱり左から巻くことにする。少し下流側の尾根なら木の根をつかんで登ることができそうだ。よく見ると古い赤テープもある。テント泊装備が重たいが滑り落ちないように慎重に登っていく。

 

 木の根、木の枝を頼りに登っていくとトラバースするタイミングを逸してしまった。仕方がないのでこのまま尾根を詰めることする。テープをつけた先人もこの尾根沿いに登っていったようだ。そのうち尾根はシャクナゲが密生する痩せ尾根になり、幾分傾斜が緩んだものの全く安心して登ることができない。背中の大きなザックが終始シャクナゲの枝に引っかかり、なかなか前に進むことができない・・。身をよじり、腰を屈め、時には強引に突破しながらじりじりと高度を上げていくとクラシの台地がだんだん近づいてくるのが分かる。

 

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登り難い尾根

 

  不意にたくさんのテープが現れた。よく見るとクラシ北尾根に合流したらしい。シャクナゲの密度も幾分薄くなり、小さいながらもブナの木が現れた。ようやく落ち着くことができたのでザックを下ろして休憩すると、やってしまった!ザックにくくりつけていたストックと銀マットが消えている。途中まではあるのを確認していたのだがシャクナゲの枝に持っていかれたようだ。少し引き返してみたが見つからない。残念だがあきらめるしかない。

 

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ぶなが出てきた

 

 クラシ・イブネの台地は前に来た時よりも笹が少なくというか全くなくなっているように見えた。地面にはスギゴケのような植物が生え、御池のようなコケの絨毯も見られる。ちょうど傾きかけた太陽が御在所や鎌ヶ岳を照らしている。抜群のパノラマコースだ。

 

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御在所、鎌方面

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銚子ヶ口方面

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イブネ北端

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熊の戸平

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御池まで見える

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雨乞は逆光の中

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もう一度、御在所と鎌、手前は七人山

 

 テントを張る場所を考えたがイブネの頂上付近がいいだろう。ちょうど根の平峠上の空間から伊勢平野名古屋市内がバーンと見渡せる。今夜は風もそれほどひどくないだろう。テントを設営し、佐目峠まで水を補給に行く。

 

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自画像

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イブネ山頂

 

 水を汲んでテントに戻ろうとしたら後ろから話声が聞こえた。テント泊装備の若いカップルが杉峠方面から登ってきたようだ。今日は朝明を出発してから、誰とも話をしていないので、話しかけようかとも思ったが相手はカップルだったので挨拶だけにした。彼らはイブネ北端あたりでテントを張っていた。(何もそんなに離れんでも・・)

 

 もう後はご飯を食べる以外はすることが無い。期待していた夕焼けもそれほどではなく、写真撮影もほどほどにしてご飯の準備を始める。

 

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夕暮れ間近

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紫の空

 

 今日の献立はサトウのご飯にレトルトカレー、一人だと食事に凝るもの何だか面倒臭い。カレーを食べ終わる頃には気温がぐっと下がってきたのでシュラフをかぶり、ウイスキーのお湯割りをちびちび。目の前には伊勢平野の夜の明かりがジンワリと浮かび上がってきた。とっておきのオデン缶を温める、そしてまた、ウイスキーをちびりちびり。

 

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浮かぶ夜景

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とっておきのおでん

 

 ラジオでは巨人対西武の日本シリーズがやっていたが、勝敗に全く関心がないとBGMにもならないのですぐにチャンネルを変える。シュラフに包まって読みかけの文庫本の文字を追っているといつの間にか寝てしまった。