晴山雨読記 Vol2

沢登り、雪山、時々山登りの備忘録

御池岳 なごり雪奥の平 2006.02.25

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真っ白な奥の平
 
<メンバー>
単独

 

<山域> 鈴鹿

 

<コース> 山口~木和田尾~白船峠~真の谷~奥の平~丸山~カタクリ峠~冷川岳~丸尾~山口

 

 今年の冬はびっくりするような大雪だったが、年が明けてからは気温の高い日が多く、積もっては融け、が繰り返されていたように思う。私はというと、このところ、仲間との楽しい山行が続き、シリセードばっかりやっていたような気がする。ぼやぼやしていると雪が融け、花のシーズンとなってしまう。「鈴鹿を愛する男(別に女性でも良いのだが)」としては、"雪の奥の平"に行かないと春は来ない。

 

 R306歩きは2月11日の山行で懲りている。ゲート完全閉鎖後は正当ルートとなっている木和田尾から白船峠越えで御池岳を目指す。

 

 山口の浄水場前は7時を過ぎたばかりというのに、すでに数台の車が止まり、登山者が準備をしていた。中高年パーティーがワイワイとにぎやかだ。今日はせかっくの一人歩き。邪魔をされると嫌なので、準備運動も程ほどにパーティーよりも先に歩くことにした。

 

 登山道の雪は標高600mを過ぎるまで全く無く、年末に歩いたのと同じ道かと思わせる。いきなりの急登にまだ起きていない体が悲鳴をあげるが、後ろからは例のパーティーの大声が聞こえてくる。吸収されるのは勘弁なので、休憩を取らず黙々と歩き続ける。

 

 年末に撤退した標高765m鉄塔までは1時間ほどでついた。そのときは5時間ほどかかっているのでえらい違いだ。北には霊仙が姿を見せ、藤原岳の稜線もきれいに見渡せる。今日は登攀意欲も満々だ。

 

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年末に撤退した鉄塔

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青空に霊仙が映える

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藤原岳の稜線もこの通り

 

 足元にはちらほらと雪が現れ始めたが、融け残った堅い雪が残るのみである。滑るほどでは無いが坂本谷との出合でアイゼンを装着し、これからの急登に備える。

 

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白船峠へのトラバース道

 

 予定通りの時間で白船峠へ到着。体調もまずます。後続のパーティーにも吸収されずに済んだ。ハリマオさん作の道標にあいさつをして、真の谷へ一気に駆け下る。御池岳の巨体が白いスクリーンのように目の前にそびえている。

 

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ハリマオさん作の道標(短歌が良い)

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白いスクリーン(今からあの壁を直登する)

 

 真の谷へは10分ほどで到着。先行者がいるはずなのでトレースを探すが新しい物は無い。かすかな痕跡を目安にし、斜面に取り付く。雪の斜面はワカンが必要なほどの沈みは無くアイゼンで充分登れる。しかし、気温が高いせいか雪はゆるく、場所によっては太股まではまってしまい、まるで落とし穴の上を歩いているようだ。

 

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雪に埋もれる真の谷

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軟雪の斜面

 

 ピッケルで沈まない場所を探りながら直登したり、トラバースしたり、のろのろと高度を上げて行く。ただ上に登って行くだけなので道に迷う心配は無いが、雪に埋もれて先に進めなくならないかが心配だ。

 

 それにしてもきつい・・・、心臓の鼓動は既にレッドゾーンに突入し、息はふいごのようになる。あまりにも景色が変わらないので何度も高度計を見るが数字は全然増えてこない。

 

 しかし、高度差は200mほどなので足を動かしていればそのうち着くだろう。何度か休憩をし、ふと見上げると壁の向こうに青空が見えてきた。
振り返れば先ほど越えてきた白船峠が眼下に見える。あと少しだ!

 

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テーブルランドの端(あれを越えれば・・・)

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霊仙、伊吹が美しいが、そんな余裕は無い

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振り返れば白船峠が

 

 そして、ついに、やっと、テーブルランドの端によじ登ることが出来た。なんだかやっとの思いで国境を越えた逃亡者のようだが、壁(斜面)の向こうに広がる風景は息を呑む程に美しい。

 

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念願の雪の奥の平

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誰の足跡もない

 

 幸い、今日は一番乗りで奥の平に着いたようだ。誰の足跡もついていない雪原が目の前に広がる。樹氷は無いが、空がとても青く雪の白とのコントラストが美しい。テーブルランドの南端に近い見晴らしの良い場所で昼食にする。

 

 天気は良いが、遠方への視界は利かない。もう春なのだろう。南に目を向ければ、御在所から雨乞、綿向が特徴のあるシルエットを霞の中に浮かべている。

 

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奥の平より藤原岳

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テーブルランド南端からのパノラマ(クリックで拡大)

 

 昼食はカップラーメンを準備したが、ザックの中でカップが割れていた。仕方ないので薄皮クリームパンを暖かい紅茶で流し込んで短い昼食を終わらせる。後は思う存分雪原を楽しむだけだ。

 

 短い昼食が終われば後は自由時間だ。テーブルランドに西端をぶらぶら歩く。雪は沈まずワカンも必要ない。去年の2月にテント泊したときは吹雪に近かったので、改めて景色を眺める。

 

 雪はかなり解けたようで、表面に水が流れた跡が縞模様になっている。雪の織り成す白い曲線の美しさと青空の深さに目を奪われながら、ただただ当ても無く歩き写真を撮る。

 

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雪の中のドリーネ①

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ボタン岩

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雪の中のドリーネ②(青のドリーネ:この時間は青くはない)

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雪の中のドリーネ③

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雪の中のドリーネ④

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雪の中のドリーネ⑤

 

 ふと振り返ると雪原の中に自分の足跡だけが記されている。なんだか気持ちが良い。しかし、蛇行している足跡を見るとあっちにふらふら、こっちにふらふらと彷徨っているのが分かる。

 

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雪原の足跡

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南峰付近

 

 幸助の池まで歩いてくる。ここは去年の2月にテント泊をしたところだ。その時は寒く樹氷が印象的だったが晴天の下でみると印象がまるで違う。今年は仲間たちとテント泊する機会に恵まれなかった。残念だ。

 

 ボタンブチの方を見ると単独のハイカーがみえる。「御在所はどれですか」と聞かれ応える。聞けば国道を歩き、コグルミ谷を登ってきたそうだ。この時点で帰路はまだ決めていなかったのでコグルミ谷の様子を聞く。まだ雪がたくさん残っているという。
青のドリーネの場所を聞かれたが明確に答えられない。「今は青く無いですよ」とだけ答える。

 

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ボタンブチに佇む人

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奥の平へ

 

 テーブルランド西端を北上し、日本庭園へ行こうとも思ったが結構疲れてきた。丸山経由でカタクリ峠まで下ろう。帰路はそこで決めればいい。丸山からは霊仙、伊吹がくっきり見えた。

 

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丸山より

 

 カタクリ峠まではシリセードを織り交ぜながら下る。途中、2週間前に引き返した幻池付近(真の谷分岐)を通る。丸山まではもう少しだった。カタクリ峠からコグルミ谷を下るか、冷川岳まで尾根を歩き、丸尾を下るか考えたが、冷川岳方面にたくさんのトレースがある。良く考えれば白船峠から御池岳へ行くには稜線上を歩くのが一番高低差が少ないのだ。

 

 丸尾を下ることにして藤原岳から伸びる稜線上を歩く。雪はほとんど解け、春の雰囲気が漂う。

 

 丸尾の下りはあまり快適な道では無い。雪が腐れて沈むのではじめてワカンを使う。やせた尾根を下るとやがて杉の植林帯を抜け、冷川谷へとでた。暗く、荒れた谷を歩き山口浄水場へ着。

 

 全行程約8時間。久しぶりの鈴鹿8時間耐久レースは好天に恵まれ、最後の雪を思う存分楽しめた。

 

 次は福寿草の咲くころにまた訪れたい。

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今回のルート(赤:往路 青:復路)